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なぜ外国語学習支援ツールを作ったのか? [外国語習得支援]

なぜ私が外国語学習支援ツールのReTeMoロールプレイを作ったのか?

簡単に言えば「自分が必要だったから」です。もっとも、これは私が作るツール全てに言えることで、ある意味当り前のことです。もう少し詳しく状況を説明すると、このソフトの開発を直接思い立ったのは「iPhoneを買ったこと」「英会話教室(超初級)に通い始めたこと」といった状況が重なったせいです。ただ、語学学習用ソフトのアイデアは以前から持っていました。それは私が語学教材コレクターだったからです。

私のように語学の才能に恵まれない人間の中には、色んな学習法に手を出し、その度に本ばかりが増えて実際にはほとんど身に付かない語学学習本コレクターの人がいます。私を含む語学教材コレクターが語学学習産業を儲けさせていると言っても過言ではないでしょう。この負のスパイラルを抜け出すには購入した本を十分に活用して自分の血肉にするのが一番なのですが、とっくに学習ピークを過ぎていて、しかも勉強時間もろくに取れない中年がそこまで徹底するにはかなりの動機付が必要です。また、そもそも勉強法を知らないから落ちこぼれたのですから、やはり効率的な勉強法の習得は必須といえます。

動機は「海外に行く」とか「パッキン美女とお知り合いになる」とか「仕事で必要になった」とか、自分の集中力と持続力を高めてくれるものなら何でも良いのでしょうが、学習法はそんな簡単にはいきません。電車での移動などの空き時間にリスニング教材を聞くというお手軽学習法もありますが、都心のように電車が頻繁に停車し、大きな音で構内放送が流れている騒々しい環境では、聞き流していたら雑音にかき消されて何も頭に入ってきません。

それにリスニング素材は基本的に「聞取り能力」を高めてくれるだけです。単語の意味を解説してくれないし(解説が録音されているなら別だが)文法的な構造から生まれる意味も教えてはくれません。もちろん単語の意味を類推することはできるでしょう。でも文の構造を類推できますか?子供は構文を類推する能力を持っている様ですが大人は持っていない様です。例えば一つ一つの単語はわかるのに、連続すると全く理解できなくなったりしませんか?これは大人が文の構造を類推する能力を失っているからです。

ここでちょっと学術的な話をしましょう。
皆さんは「ピジン」と「クレオール」という言葉をご存知でしょうか?どちらも奴隷同士の言語を指す学術用語です。黒人奴隷が盛んだった時代、反乱を企てないように奴隷達は違う部族のものを集められて、お互いの言葉がわからない状態におかれました。その環境下で何とか奴隷同士がコミュニケーションをとろうとして生まれるのが「ピジン」です。ピジンは単語の寄せ集めで、時勢や仮定法のような文法を持ちません。ところが奴隷間の子供達が話す言語には文法が発生します。この子供達が話す言語をクレオールと言います。大人達はクレオールを習得することができなかったそうです。ピジンとクレオールは奴隷間だけでなく交通の要衝などで出身の異なる商人が集まった場合などにも発生しますが、どのピジンとクレオールでも両者は文法的な完成度が大きく違うのです。

この歴史的事実は聞き流し学習法の限界を示唆しています。すなわち大人が普通に聞き流しで言語を学習しても、文法を駆使した複雑な意思伝達は修得できません。これは大人が外国語を学ぶ際には文法学習が不可欠だと言うことを意味しています。そして、クレオールが話し言葉であることからもわかる通り、会話学習に於いてもある程度の文法学習が必要なことは間違いないでしょう。文法とは「単語の配置や変化についてのパターン」と「その変形意図」の組合わせですので、パターンを集中的に練習することで、ある程度の学習は可能なはずですが、なにしろ我々は学習ピークを過ぎた大人ですから子供以上に反復練習が必要です。ここで言う反復練習は学んだ文法を使って自分で文を組み立ててみることです。やれやれ大変ですね。

反復練習はとりあえず置いておいて、文法を学ぶことに話を戻しましょう。
我々中年は英語の文法をどうやって学べば良いのでしょうか?というより、どの教材を使えば良いのでしょうか?私もそれほど詳しいわけではありませんが、とりあえずCD付きで音声が入っているものが良いのではないでしょうか。言語は音声から始まるものですから、文法と言えども耳から入れる学習は効果的です。お勧めは田中茂範氏や大西泰斗氏が出している「文法の背景になっている思想」を解説してくれるタイプの教材です。これらは理解を深め、想像力を膨らませる手助けをしてくれます。とは言え1冊の本で解説できることには限度がありますから他の方の普通の文法書があっても良いでしょう。漫画ドラゴン桜とタイアップしたドラゴンイングリッシュ100とか、CDは付いていませんが「英語のトリセツ」シリーズなどは参考になりました。NHKの外国語講座のテキストも文法を扱う音声教材が沢山あるから活用すると良いでしょう。

ただし、これらの教材には弊害があります。それは日本語を使って解説されることです。外国語学習の際に母国語が介在ことの弊害は脳科学者、脳機能学者、言語学者等の専門家が盛んに訴えていますからご存知の方も多いでしょう。しかも英語は国際語ですから英語だけで文法を教える教材も充実しています。(地方ではamazon等の通販でしか買えませんが。)一方で英語で英語の文法を学ぶのは多くの学習者にとってハードルが高いのもわかります。そもそも習得すべきなのは文法の「パターン」であって、文法の「理論や用語」ではないから、留学したり英会話スクールでネイティブに習うのでなければ日本語で文法を学んでも問題ありません。そのかわり先ほどでてきた反復練習で文法を「修得」する際に日本語が混じり込むと、脳内に英語の回路が作られるのが阻害されます。英語に限らず外国語を習得するためにはその言語だけを使って考え事ができるように訓練すべきです。母国語はこの訓練の妨げになります。だから一度解説を聞いたら、後は日本語の解説を忘れてパターンだけを追うようにしたいものです。ここでようやく「主言語や副言語を消音したりスキップする」というReTeMoロールプレイの機能につながる要件がでてきました。(笑)

話が長くなったので整理しましょう。ReTeMoロールプレイには言語毎に再生をコントロールする機能があって、それは主に「音声素材中の日本語(母国語)」の部分をスキップして再生するためのものです。英語だけが入った教材ではなく、日本語解説が入っている音声素材を前提にしているのは、成人の語学能力の欠陥を補うのに、母国語の解説が助けになるからです。練習の意味を理解するまでは日本語で補助し、最終的には日本語を追い出して反復練習する、そんな学習方法をReTeMoロールプレイは可能にします。言換えれば、これが私が語学教材コレクターから脱出するために考えた最初の手です。


もう一つ、消音(ミュート)やスキップができる機能がReTeMoロールプレイにはあるのですが、それは製品名にもなっているロール(役柄)です。ロールは英会話教室での練習風景から生まれた機能です。私が通っている教室ではテキストに載っている会話をそれぞれの役に分かれて話す練習をするのですが、ロール機能を使えばオーディオブックにこの相手役の代りをさせることができます。また英会話教室ではネイティブのスピードに付いていく練習としてCDのある役柄のところだけ音を消して、代りに生徒がしゃべるということもやりますが、これも同じ機能が使えます。他の教室のことはわかりませんがNHKの語学講座などでも会話の一部をわざとブランクにして生徒がしゃべる練習をするシーンはよく出てきますね。そういうことにも使えるわけです。

これだと話す内容を自分で考えるわけではないので表面的な練習にしかならないんですが、実際にやってみると、なるほどネイティブのスピードについていくためにかなりの集中力を要します。同じくネイティブの発音やスピードについていく練習の「シャドーイング」と比べても、引っ張ってくれる音が無い分、負荷が高くなり、これはこれで良い練習です。

じつはこのロール機能がReTeMoロールプレイを作る直接のキッカケでした。弊社は元々CGアニメーションのための人工知能を構築すると言う難しい?研究をしていて、「役」という考え方に敏感だったんです。我々が研究しているCGアニメ用のキャラクターも「役」を演じることでアニメーションを作ります。語学学習用に役柄に色んな付加価値をつけることはそれと大して違わないはずで、「じゃあロールを基本単位とする語学学習ソフトを作ってみようか」と考えてReTeMoロールプレイを作り始めました。

もう一つ、ReTeMoロールプレイの大きな特徴として「自作自演」というコンセプトがあります。多くの語学学習用プレーヤは語学教材の出版元から出ていて、教材はアプリ内課金でネットから簡単に入手することができます。これはとても便利ですから、商売としてはこちらのやり方の方が儲けやすいことでしょう。ですがReTeMoロールプレイは語学教材の出版元とタイアップすることより、教材を既存の語学教材から自作することを第一に考えました。理由は便利過ぎるのも良くないと思ったからです。

結構、昔になりますが韓国の鄭 讃容という方が書いた「英語は絶対、勉強するな」というシリーズがベストセラーになったことがありました。この本はタイトルに反して最も原始的な語学学習法を推奨しています。つまり補助要素がいっぱい入っている現在主流の語学教育を捨て去り、まずは耳で理解し、それをそのまま文字として書き出し、英英辞書を引いて自分で添削し、文法に相当するモノもその過程で体得せよというのです。何と原始的で厳しい学習法でしょうか。確かに苦労をすれば人間、骨身に沁みますし、子供が言葉を覚える過程とほとんど同じですから一理ある方法だと思います。この学習法をそのまま実践する気には成れませんが、結局のところ語学学習というのは、同じようなことをできるようになるのが最終的な目標なのではないでしょうか?すなわち、自在に聴き取り、自在に話し、自在に書く、そこまで到達できたら確かに理想的です。そしてそこに至るには自分で苦労することも必要でしょう。至れり尽くせりの教材は確かにその場の理解を容易にしてくれるかもしれませんが習熟を促すものではありません。補助輪付きの自転車に乗っていてもいつまでも自転車に乗れるようには成らないのと同じことです。(最近は補助輪付きの子供用自転車も見かけなくなりましたね。)

それに、これまでもたくさん提唱されている外国語の学習方法というのは、本来、教材に使われている例文とは独立した存在です。言換えれば一つの例文を色んな学習方法で使い回せるはずなんです。例文は既存の教材から拝借して、学習法というか練習方法は自分で工夫する、実はそれが数々の語学の達人達が実践してきた方法ではないでしょうか?そうした工夫ができることこそ学習支援ツールのあるべき姿だと思います。

まあ、ぶっちゃけた話をすれば「手元に大量の教材がすでにあったから、それを活用したかった」という個人的理由ももちろん大きいです。将来的には語学教材の版元と組んで教材の提供をすることもやってみたいのですが、それでも至れり尽くせり、というより雁字搦め(ガンジガラメ)の教材ではなく適度の自由さと厳しさを併せ持った形にしたいですね。

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